ソフトウェア開発において重要な要素として「品質」「コスト」「納期」の三つの要素があります。
各々の要素を英語で表すとQuality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)となり、各要素の頭文字を取った言葉が「QCD」となります。
QCDはプロジェクトの成否に大きな影響を与えるため、QCDのバランスを変える際には慎重に検討する必要があります。
本記事では、ソフトウェア開発において重要なQCDの各要素の特徴、優先度、QCDの改善方法について解説します。
QCDとは
QCDとは、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の頭文字をそれぞれ取ったフレームワークの名称です。
QCDは主に製造業やシステム開発などの管理で用いられる用語であり、どの業態においても全ての要素を同時に向上させる事は困難とされています。
困難である理由としては、QCDはトレードオフの関係にあることが影響しています。
QCDと似たような関係性を持つ身近な例として、ゲームキャラクターのパラメータ(性能)をイメージするとわかりやすいと思います。
ゲームキャラクターには特徴があり、例えば攻撃力の高いキャラクターは防御力が低かったり、防御力の高いキャラクターは攻撃力が低かったりします。
QCDも上記のような特徴があり、品質を上げるには相応のコストや納期が必要となり、コストを抑えるには品質や納期を調整する必要があります。
具体的には、下記のようなレーダーチャートを想像するとわかりやすいと思います。
※工数や費用のかけ方を100とした場合のチャートが下記になります。
このように、QCDはトレードオフの関係にあるため、プロダクトごとに適切なQCDのバランスを見極める必要があります。
QCDの特徴
QCDの各要素の特徴は下記の通りです。
Quality(品質)
Qは成果物の品質を指します。
製造業・システム開発などの分野を問わず、顧客が満足するラインの品質を保つことが重要になります。
品質が低い場合には下記のようなリスクを負う可能性が高くなります。
- 競合製品と比較されて売れ行きが悪くなる
- リリース後にバグや故障が見つかりやすくなり、改修コストが増加する
- バグや故障が見つかることで顧客からの信用を失い、ブランド力が低下する
逆に品質が過剰に高い場合には下記のようなリスクを負う可能性が高くなります。
- 相応の開発コストが伴い、採算が合わなくなる
- 高い品質を維持するために、製造に時間がかかり、納期が延びる
Cost(コスト)
Cは製造や開発などでかかる費用を指します。
材料費や人件費などが該当し、プロダクトにとって適切な費用を見極めることが重要になります。
コストを無理に抑えようとした場合には下記のようなリスクを負う可能性が高くなります。
- 従来の品質を維持できなくなり、顧客やファンが離れてしまう
- 人員や機材などのコストを削減により、納期が延びるようになる
逆にコストを過剰にかけた場合には下記のようなリスクを負う可能性が高くなります。
- 人員補充をした結果、メンバーを教育する時間が増えて負荷が急増する
- 製造に必要なツールや機材の買い替えを頻繁に行うことで、チームに混乱を与えてしまう
Delivery(納期)
Dは成果物を顧客に届けるまでの期間を指します。
納期は顧客に製品を届けるだけでなく、製造期間も含まれることを意識することが重要になります。
納期が遅れる場合には下記のようなリスクを負う可能性が高くなります。
- 期日を守れなくなることで、顧客との信頼関係が悪化する
- 納期が延びることで製品の旬の時期を逃してしまい、利益が少なくなる
逆に納期を無理に早めようとした場合には下記のようなリスクを負う可能性が高くなります。
- 製造不備、人的ミス、見落としなどが発生し、品質が低下する
- 作業者を増員して納期を早めようとした場合に、人件費が増加する
QCDの優先順位
QCDはトレードオフの関係にあり、何かの要素を上げると他の要素にも影響を与えます。
適切なQCDのバランスはプロダクトによって変わりますが、どのようなプロダクトでも優先して考えるべき要素は決まっています。
一般的に、最優先で考えるべき要素はQ(品質)となります。
品質が最優先となる理由としては、品質を軽視した場合のリスクが大きい点にあります。
品質を軽視すると、下記のようなリスクを負う場合があります。
- 競合と比べて見劣りした製品となり、売れなくなる
- バグや故障の発生で利用者からのクレームが多発し、改修やクレーム対応などのコストが増加する
- 改修やクレーム対応に追われることで、納期が延びてしまう
- バグや故障の発生と納期の頻繁な遅延により、社会的信用が失墜し、ブランド力が低下する
QCDはトレードオフの関係ではありますが、上記の通り品質を損なうことは大きな損害につながるため、必然的に品質の優先度が高くなります。
仮に、コストと納期が先に決まっているプロダクトの場合でも、十分な品質を担保できない場合には、最低ラインの品質を考えたうえでコストと納期を検討することが重要になります。
ソフトウェア開発におけるQCDの改善方法
ソフトウェア開発の際には、静的テストにおけるレビューを実施することで、品質を向上させつつコストと納期の改善を実現することも可能です。
静的テストの一般的なレビュー形式には下記の4つの形式があります。
- 非形式的レビュー
決まったプロセスはなく、同僚などが実施するレビュー。
最も公式性の低いレビュー形式。 - ウォークスルーレビュー
成果物の作成者が中心となって内容を説明し、質疑応答によって懸念事項を解消するレビュー。
公式性がやや低いレビュー形式。 - テクニカルレビュー
同僚や技術エキスパートが第三者(レビューア)として参加し、質疑応答によって懸念事項を解消するレビュー。
経験を積んだファシリテーターが主導するため、公式性の高いレビュー形式。 - インスペクションレビュー
成果物の欠陥を見つけ、将来の類似欠陥の防止にも貢献することを目的としたレビュー。
参加者の役割は明確であり、形式に基づいたプロセスで実施されるため、最も公式性の高いレビュー形式。
上記の中でも、特にインスペクションレビューは品質向上に貢献する可能性が高いレビュー形式となります。
インスペクションレビューは、設計書やソースコードなどの成果物を第三者(レビューア)がチェックシートなどを用いて確認するレビュー方法となりますので、確証バイアス(※)の影響が最も少ないレビュー形式になります。
※確証バイアスの参考記事は下記になります。
インスペクションレビューによって、設計書やソースコードなどの成果物に潜在的不具合が無い事が確認できれば、開発工程の手戻りを最小限に防ぐことができるため、コストの軽減と納期の短縮を実現することが可能となります。
このように、インスペクションレビューを行うことは、品質の向上だけでなく、コストと納期の改善にも貢献し、QCD全体の向上にもつながります。
まとめ
QCDは下記要素の頭文字を取った言葉となります。
- Quality(品質)
製品の品質 - Cost(コスト)
製品の生産や納品にかかる総費用 - Delivery(納期)
製品を顧客に届けるまでの期間
ソフトウェア開発においてQCDはいずれも重要な要素となりますが、特にQ(品質)は重要な要素であることを認識しておく必要があります。
QCDの適切なバランスは組織やプロダクトの状況によって変わりますので、状況に応じてどの要素にどの程度の力を入れるかを慎重に検討しましょう。